レーザー墨出し器の使い方は?精度を点検する方法も紹介
レーザー墨出し器は、建設現場やイベント・ライブ会場の設営、製造現場での基準出しツールとして使用される器具です。
DIYのように自宅で行う工作から、建設現場まで幅広い作業に使用され、正確な水平・垂直ラインの設定に貢献しています。手作業よりも時間と労力がかからず、高精度な結果が得られます。
この記事では、レーザー墨出し器の種類や特徴を中心に、レーザー墨出し器の使い方や使用に付随する道具を紹介します。精度が維持されているかを点検する方法についても詳しく解説します。
使用前に押さえておきたいレーザー墨出し器の種類
レーザー墨出し器には、「ジンバル式」と「電子整準式」があります。それぞれの種類について詳しくみていきましょう。
ジンバル式
ジンバル式は、「磁気制動式」「マグネットダンパー方式」とも呼ばれている墨出し器です。装置の中にはおもりが取り付けられており、地球にはたらく重力を使って水平や垂直を求める仕組みです。
おもりを吊り下げた状態で垂直を取ることができますが、水平を求めるときは垂直を出してから差し金などを使います。後述する電子整準式よりもシンプルかつ自然の原理にしたがった構造といえるでしょう。
ジンバル式は電子整準式のように温度変化による影響は受けませんが、振動によって上下に揺れてしまうと、水平を引くことができなくなるデメリットがあります。
一方、自然の原理を使う構造のため本体価格やメンテナンス費用がかからず、費用対効果の高さがメリットです。
電子整準式
電子整準式は「電子整準方式」とも呼ばれ、整準センサーを使用して水平を求める墨出し器です。液体の中にある気泡の位置から傾きを判定し、水平をとる仕組みです。
振動に強い特長があり、ジンバル式では不安定になってしまうレーザーをしっかりと安定させられます。微振動が絶えない現場での作業に適しています。
ジンバル式のように振動の影響は受けませんが、気圧・気温によって気泡の状態が変化すると、水平を保てなくなってしまいます。一方で、高性能なモデルが揃っており作業中に故障するリスクが少ないことが利点です。
屋外のように天気が移り変わりやすく、気温や気圧の変化が激しい場所には不向きですが、それ以外の安定した環境では精度の高い結果を得ることができます。
レーザー墨出し器を使用する際に必要な道具
レーザー墨出し器はそのままでも使用できますが、水平を出して印をつけるといった作業には、次の道具が使われています。
- 墨つぼ:糸を伸ばして地面や壁、材料に基準線を引く道具
- 墨差し(墨打器):凹凸のある場所に直線を引く道具
- 水糸:糸を張って位置決めや寸法を測る道具
- 画線器:工事前の下書き作業などで直線を引く道具
- 糸巻き:レーザー墨出し器が使えない場所で基準線を引く道具
- 下げ振り器:レーザー墨出し器
- セオドライト(トランシット):水平角や高度角を測定する道具
- トータルステーション:距離と確度を同時に測定する道具
- レベル(水平器):測量機を水平にする・レベル測量で2点間の高低差を測る道具
- メジャー(スケール):水糸の高さを読み取る補助用の道具
- 差し金(指矩):直角の墨出しをするL字型の道具
レーザー墨出し器を使う作業では、これらの道具を補助的またはメインで使いながら基準線を引いたり、角度を測定したりします。
関連記事:高低差の確認に使われる測量機器「レベル」の特徴・種類と使用方法
墨出し器を使用する際に役立つ用語
墨出し器を使用する際に役立つ用語「地墨点」「垂直」「グリーンレーザー」について、詳しく解説します。
地墨点
地墨点(じずみてん)とは、地盤の上に「捨てコンクリート」を打ち、その上に付ける印のことです。
工事現場で設計図と同じように線を引く作業は墨出しと呼ばれますが、地盤に墨を打つことができないため、コンクリートを打ってからその上に地墨点を置きます。点を結んで線にすると地墨となり、壁や柱といった基礎や支柱の位置関係を明確に示します。
垂直方向に線を記す場合は立て墨(たてずみ)と呼び、立て墨は柱や壁面に窓や出口などの中心線を記すために使用されます。
垂直(たち)
垂直(建ち/たち/タチ)は、床や地面に対する垂直方向のことです。
従来の点検・工事では下げ振りを使った確認が行われてきましたが、現在は効率化や機器の精度向上によってレーザー墨出し器が多く使われるようになりました。
壁や柱は水平(陸/ろく/ロク)に対して90度の垂直でなければなりません。この垂直を見るためにレーザー墨出し器や下げ振りと呼ばれるおもりを使用します。
グリーンレーザー
グリーンレーザーは、532nmの可視光を発振するレーザーです。黄緑色や緑色をしたレーザー光で、視認性が高い点がメリットです。
レーザー墨出し器のレーザー光はレッド・ブルーグリーン・グリーンといった種類があります。場所を問わず見えやすいため、現在ではこのグリーンレーザーが主流となっています。
レーザー墨出し器には、レッドをグリーンに変換する『変換方式』と、最初からグリーンで照射する『ダイレクト方式』の2種類があります。
レーザー墨出し器の使い方
レーザー墨出し器を使用するときは、まず置き場所を決めます。次に精度の確認をして、方向や角度の精度を確認した後、墨出し作業に入ります。
使い方の流れは次のとおりです。
【レーザー墨出し器の使い方】
- 垂直・水平を確認する
- 墨出し器の位置を合わせる
- 中心位置などに照射する
- 墨出し器を微調整する
- 印をつけてから作業に入る
はじめに、地面が垂直・水平になっていることを確認します。墨出し器を正しくセットできる位置を確認してください。
次に、墨出し器の位置を調整して、穴を開けたい場所の中心位置にレーザーを当てます。微調整を行い、中心を正確に確認した後、印やマーキングを行い、作業を開始します。
墨出し器を使用する際のポイント
墨出し器を使用する際のポイントとして、「照射ラインの中心への墨付け」と、「明るい場所で使用する際に受光器を活用する」2点をみていきましょう。
照射ラインの真ん中を墨付けする
レーザー墨出し器から照射されるラインは、10mの距離で2mm程度です。ラインを見て墨付けを行う作業では、この照射ラインの太さに注意が必要です。
レーザー光は照射距離が遠くなるにつれて太くなる性質があります。そして、左右対象に線が太くなっていくため、2mmのレーザーラインであれば、左右からそれぞれ1mmの場所が中心線になります。ラインの中心を視認し、墨付けを行うよう心がけてください。
ただし、レーザーラインの精度は常に一定ではないことに注意が必要です。環境変化や対象物の凹凸、正しく照射が行われているかどうかといった点で精度が変わる場合があります。レーザー光線は壁や天井に当たり、墨付けがスムーズに行えないケースもあります。
事前に差し金などを墨付け位置に持っていき、どの位置で正しく墨付けができるのかを確認しておくと良いでしょう。
明るい場所で使用するときは受光器を活用する
レーザー墨出し器のレーザーは、明るい場所で使用すると、見えにくくなる場合があります。日中の屋外や直射日光が差し込む窓のそば、または日光が反射するガラスが近くにある場合です。
1mほどの距離でもレーザー光が見えにくくなることがあるため、輝度を調整して視認性を向上させます。それでも見えづらい場合は、受光器を活用してください。受光器は、レーザー光の位置を音またはLEDで知らせてくれるアイテムです。
対象との距離が離れると、レーザー光の視認性が低下する場合があります。その際は対象とレーザー墨出し器を近づけて、再度レーザー光の見え方を確認してください。
レーザー墨出し器の精度を点検する方法
レーザー墨出し器の精度は常に一定ではなく、使用前に精度を確認しなければなりません。
点検の方法と手順は次のとおりです。
- 水平ライン精度を確認する
- 縦ライン精度を確認する
- 鉛直クロスポイント精度を確認する
- 左右通り精度を確認する
- 矩精度を確認する
水平ラインや縦ラインの精度を確認してから、クロスポイントや左右通り精度を順番に確認します。
※上記の手順は一例です。製品の製造元・メーカーの推奨する方法で精度確認を行ってください。
水平ライン精度を確認する
水平ラインの精度確認は、対象の壁から離れた水平な場所にレーザー墨出し器を置きます。床に直接設置できない場合は、板や机を置き、その上にレーザー墨出し器を設置してください。
水平ラインを照射した先の壁に養生テープを貼ってマークをしておきます。電源をオンにして水平ラインを射出し、テープの上にラインの右端が位置するようにマーキングを行い、次にレーザー墨出し器を回して、水平ラインの左端がテープの上に位置するようにマーキングします。
マークが正確に一致しているかを確認します。
縦ライン精度を確認する
レーザー墨出し器の縦ライン精度を確認するときは、下げ振りを使用します。風や振動の影響を受けない安定した場所で、高さ3m地点をマーキングします。そのポイントから下げ振りを下に吊るし、床面をマーキングします。
そのポイントにレーザー墨出し器の縦ラインを合わせてみて、床面のマーキングポイントとずれていないかを確認しましょう。マーキングが困難な環境では、下げ振りに縦ラインを直接射出してずれていないか確認してください。
鉛直クロスポイント精度を確認する
鉛直クロスポイント(鉛直点)の精度確認は、地墨点の確認から行います。床面から天井まで3m程度の高さがある振動や風のない部屋に水平に設置します。
円形気泡管の中にある泡が円の中心にくるように調整し、電源をオンにしてすべての縦ラインを射出し、下部のポイントと鉛直クロスポイントをそれぞれマーキングし、ポイントA・Bとします。
マーキング後にレーザー墨出し器を180度回転させて、下部ポイントをポイントAに合わせて鉛直クロスポイントを再度マーキングし、ポイントCとします。ポイントBとCの差をL1として、許容範囲内であれば問題ありません。(※)
※許容範囲は機種ごとに異なるため、機種の到達点精度を確認してください。
左右通り精度を確認する
左右通りの精度確認は、床が平らな場所に約11mの水糸をたわみなく張ります。地墨線が引いてあれば糸の代わりに使用できます。
水糸の中央をマーキングし、ポイントAとします。Aから左右に5m離れた場所をポイントB・Cとしてマーキングします。レーザー墨出し器を中央のAに置いて、円形気泡管の中の気泡が赤い円の中心部分にくるように調整し、電源をオンにしてすべての縦ラインを射出します。レーザー墨出し器の下部ポイントをポイントAに合わせて、縦ラインの右側をポイントBに合わせます。
左側のライン上、ポイントCの位置にマーキングをしてポイントDとします。このとき、CとDの差をL1として、許容範囲内であれば正常です。(※)
※許容範囲は機種ごとに異なるため、機種の到達点精度を確認してください。
矩精度を確認する
矩精度確認のうち「レーザー墨出し器の下部ポイントをポイントAに合わせて、縦ラインの右側をポイントBに合わせる」までは左右通り精度を確認する方法と同じです。
幅11mの場所で縦ラインの下部をポイントA、右側をポイントBに合わせてから、下部ポイントを基準に正面の縦ラインをチェックし、レーザー墨出し器から5mの位置をマーキングしてポイントDとします。
レーザー墨出し器をずれないようにポイントCの方向へ回転させ(ポイントBの反対側に位置する点)、レーザー墨出し器の正面から射出された縦ラインがCに合うように調節します。
その状態で、レーザー墨出し器の右側縦ラインをマーキングし、同じ方向にあるポイントDと縦ライン上のポイントEの差を測定します。CとDの差をL1として、許容範囲内であれば正常です。(※)
※許容範囲は機種ごとに異なるため、機種の到達点精度を確認してください。
作業前にレーザー墨出し器の使い方を確認しよう
今回は、レーザー墨出し器の特徴と使い方、精度確認の方法について紹介しました。
DIYや点検、建築の現場では、構造部に歪みや傾きがない状態で建物を建てる必要があります。レーザー墨出し器は手作業に代わり、基準を正確に出すために活用されています。
精度や使用方法は製品ごとに異なり、許容範囲と呼ばれる精度も製品のスペックによって変わるため、使用環境に適した製品を選ぶことが大切です。製品の特徴やメリット、正しい使用方法をチェックしたうえで、作業に導入することをおすすめします。