構造物の検査に欠かせないコンクリート試験とは?非破壊検査も紹介
コンクリート試験は、コンクリート造の構造物の建設や解体、定期検査の際に行われており、構造物の品質保持に欠かせないプロセスです。正しい手法と測定機器を使って検査を行うことで、構造物に発生している劣化や損傷を早期に発見し、適切な対策が講じられます。
コンクリートは、セメントや砂といった物質を固めた材料です。コンクリートで造られた建物は木造よりも頑丈に仕上がりますが、耐久性や安全性を確保するためには材料の特性を正しく評価し、設計基準に適合していることを確認しなければなりません。
ここでは、コンクリート試験の概要や目的、種類について紹介します。検査方法について詳しく見ていきましょう。
コンクリート試験とは
コンクリート試験とは、コンクリートの品質や性能を評価するために行われる様々な試験の総称です。
- スランプ試験
- 空気量試験
- 塩化物試験
- 強度試験
これらの試験はコンクリート材が硬化に十分な強度を確保し、十分な耐久性が確保できるかどうかを調べるものです。
試験方法は日本工業規格に規定されています。一例として、強度試験の一種である「圧縮強度試験方法」は、JIS A 1107:2022「コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法」に規定されています。(※)
※参照元:日本規格協会「JIS A 1107:2022 コンクリートからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法」
コンクリート試験の種類
コンクリート試験の種類は、材料の特性を把握する手段としていくつかの種類に分けられます。
それぞれの検査方法をみていきましょう。
スランプ試験
スランプ試験(スランプフロー試験)は、コンクリートの流動性や材料分離抵抗性を測定する試験です。
この試験では、製造した生コンクリートの一部を採取し、円柱形の容器(スランプコーン)に流し込んで、容器を上に引き上げて生コンクリートのみを残し、崩れたときの高さを測定します。高さ(スランプ値)が大きいと流動性が高くなり、小さいと流動性は低くなります。
生コンクリートが型枠の中で均一に広がり、構造物を堅牢に形作れるかどうかを確認する試験であり、コンクリート自身の施工性能を評価するための検査です。
空気量試験
空気量試験は、コンクリート中に混ざっている空気量を測定する試験です。
生コンクリートの中に空気が一定以上含まれると、強度が低下し構造物の安全性が低下します。打ち込みや仕上げといったワーカビリティにもかかわるため、試験を行って適量の空気が含まれているかを検査します。
生コンクリートを密閉容器の中に詰めて、表面に泡が見えなくなるまで叩いてならします。ポンプで加圧してエアメーターを読み、空気量を測ります。
塩化物試験
塩化物試験は、コンクリートに含まれる塩化物イオンの量を測定する試験です。
塩化物イオンの量が多いと、コンクリートの劣化・腐食を引き起こす原因となることから、コンクリート自体の品質を検査するために行われています。
生コンクリートのサンプルを溶解して、塩化物イオンの濃度を専用の分析器で測定します。塩化物イオン量が多く、耐久性や安全性に問題がある場合は、修正または材料の再調合が行われます。
強度試験
コンクリートの強度試験は、どの程度の力に耐えられるかを検査する試験です。
「圧縮強度試験」はもっとも一般的な方法で、コンクリートの試験体に圧力をかけ、破壊されるまでの荷重を調べます。
他にも引く力への強さを調べる「引張強度試験」や、曲げへの強さを評価する「曲げ強度試験」、コンクリートの密度と気泡の量から、強度に及ぼす影響を調べる「圧密試験」も強度試験の一種です。
あらゆる方法でコンクリートの強度を測定評価することで、コンクリート構造物の設計や耐久性に問題がないかを判断できます。
コンクリートの非破壊検査試験とは
コンクリートの非破壊検査試験(非破壊検査)は、コンクリートを損傷させずに内部の劣化や損傷の有無・程度を評価する試験です。
非破壊検査は、内部の状態を直接目視できない場合に行われます。コンクリートの物理的特性や品質を損なわない方法のため、建物を壊せないが安全性を評価したい場合に適しています。
作業者がハンマーなどを使って叩く「反発度法」は、広く知られている非破壊検査の一種です。その他にも、電磁波やX線を使う試験が行われています。
非破壊検査試験は、コンクリートのどのような特性や状態を知りたいかによって適切な方法が異なるため、構造物の状態や場所、環境も含めて適切な方法を選択することが重要です。
関連記事:コンクリート製品や構造物の検証に欠かせない「非破壊検査」を解説
コンクリートの非破壊検査試験の種類
非破壊で行う試験にはさまざまな方法があります。代表的な方法は次のとおりです。
【コンクリートの非破壊検査試験】
調査方法 | 調査できるもの | |
反発度法 | コンクリートの強度 | |
電磁誘導法 | コンクリート内部の鋼材の位置や径、かぶり・コンクリートの含水状況 | |
超音波法 | コンクリート内部の欠陥・強度・圧縮強度などの品質 | |
打音法 | コンクリートの品質・内部の欠陥 | |
衝撃弾性波法 | コンクリート内部の欠陥・部材寸法・接着部の充填状況 | |
AE法 | コンクリートの欠陥 | |
赤外線法 | コンクリート内部の欠陥と分布状況 | |
X線法 | コンクリート内部の鋼材の位置や径、かぶり・接着部の充填状況 | |
電磁波レーダー法 | コンクリート内部の鋼材の位置や径、かぶり・内部の欠陥 | |
自然電位法 | コンクリート内部の鋼材の腐食状況 | |
分極抵抗法 | コンクリート内部の鋼材の腐食速度 | |
四電極法 | コンクリートの電気抵抗 | |
ファイバースコープ調査 | コンクリート内部の欠陥・鋼材の腐食状況・鋼材の位置・接着部の充填状況 |
コンクリート内部の状態は、反発度法や電磁誘導法で把握できます。固着部や接着部の接着剤の充填状況を調べるときは衝撃弾性波法などが使われます。
コンクリート構造物のうち、どの部分を調査するかによって試験方法が異なることに注意し、試験の適用範囲や機器の取り扱い方法も踏まえて正しく検査・評価を行いましょう。
コンクリートの非破壊検査の測定機器
コンクリートの非破壊検査に使われる測定機器には、次のような種類があります。
- 超音波探傷器
- インパクトエコーテスター
- ラジオグラフィー装置
- 電気インピーダンス計
超音波探傷器
超音波探傷器は、構造物の内部に超音波を送信し、反射波を受信して内部の状態を調べる超音波法に使われる機器です。
関連記事:超音波厚さ計の基本的な使い方と基礎から応用までの測定方法
インパクトエコーテスター
インパクトエコーテスターは、構造物の表面に打撃を与えて弾性波を発生させ、反射した弾性波を測定してコンクリートの強度を推定するインパクトエコー法に使われる機器です。
ラジオグラフィー装置
ラジオグラフィー装置は、構造物の内部にX線を当てて透過像を撮影し、内部の状態を調べる機器です。
内部構造を詳細に観察できるため、細かいひび割れや水分の挙動を可視化し、把握する際に役立ちます。また、内部に埋め込まれている鉄筋や配管の位置や状態も詳細に把握できます。
経年劣化したコンクリートの内部に水が入り込み、鉄筋が腐食している場合は、その腐食の程度を詳細に評価する必要があります。そのようなケースではラジオグラフィー装置が使われています。
電気インピーダンス計
電気インピーダンス計は、電極をコンクリートに当てて電気を流し、その伝わり方を測定してコンクリート内部の状態を推定する測定機器です。
コンクリートの中に伝わる電流の周波数・位相角を調べると、内部で発生している欠陥の有無や程度、水分量や強度が評価できます。
非破壊検査を受ける際の注意点
非破壊検査を受ける際の注意点は、次の3点です。
- 検査範囲を過剰に広げない
- 許可を得て実施する
- 適切な測定機器を使用する
検査前には、関係者からの許可や検査範囲の指定といった準備が必要です。
検査場所の汚れや塗料、検査に不要な物をどかす作業も事前に行いましょう。準備が整えばスムーズに検査が行えるようになり、結果の精度も向上します。
ポイント①検査範囲を過剰に広げない
検査範囲は、作業時間とコストを考えて指定しましょう。
必要以上に広い範囲を指定すると、検査にかかる時間とコストが増加し、データの管理や分析が複雑になるため、プロジェクトの進行や効率に影響を与えるおそれがあります。
ポイント②許可を得て実施する
一般的に、検査の際はコンクリート構造物の管理者や所有者、現場責任者の許可が必要です。
検査の直前になってから許可をとることがないように、余裕をもつ必要があります。事前に検査の目的や方法、使用する測定機器とその範囲、準備から後片付けまでのスケジュールを説明し、許可を得ておきます。
許可を受けていれば、検査期間中のトラブルが避けられ、周辺の住人や通行人からの理解を得て、スムーズに検査を進められます。安全性・法的な点からも、必ず関係者の同意をとりましょう。
ポイント③適切な測定機器を使用する
コンクリート試験では、はじめに検査の目的を明確にしてから、評価するものの内容・範囲・手法を把握し、準備を行います。検査の種類によっては専門の測定機器が使われるため、専門性をもつ作業者が必要です。
目的や範囲に合わせて検査方法を選び、機器や作業者を揃えます。検査が構造物の安全性に影響を及ぼさないよう、慎重に検討しましょう。
コンクリート構造物とその周辺の安全にも配慮しなければなりません。マンションや商業施設の場合は通行人や住人の理解を得て、人々の安全にも配慮したうえで測定方法や測定機器を選定しましょう。
コンクリート試験方法の種類と方法を知る
今回は、コンクリート試験の概要と検査方法、検査を安全に進めるためのポイントを紹介しました。
コンクリートの検査や試験は、「受入検査(受入試験)」とも呼ばれています。建物を施工するときに、施工者が発注したコンクリートが一定の品質であるかを確認するために実施されています。また、構造物の定期検査や経年劣化の調査、建て替え工事の前にも行われています。
検査の前には、目的や測定範囲を定めて許可を得て、必要な手法と測定機器を準備します。測定機器は扱いやすく、現場での安全性を確保できるものを選定してください。